波に乗るように、青に魅せられて
三塚新司は、もともと「青」に取り憑かれた男だった。
透明な海の深み、空の澄み渡る青さ、それらをどうにかしてキャンバスに閉じ込めたいと願った。
そして、その願いを叶えるために辿り着いたのが、意外にも「サーフボード」の作り方だった。
大学を卒業してから約10年。彼は試行錯誤の末、ウレタンフォームと樹脂を使い、独特な青の表現を生み出す方法を編み出した。
サーフボードの制作技法を応用し、層を重ねることで深みのある色彩を生み出し、波のように揺らめく作品を作り出したのだ。
それは、まるで時間の流れや記憶の断片が交差するかのような、不思議な奥行きを持つ作品だった。
しかし、波に乗ることは、いつかは岸へとたどり着くことを意味する。
三塚は、青の世界に満足することなく、新たな表現を模索し始めた。そして、彼の興味は「疑問」というテーマへと向かっていく。
バナナの皮と転ぶ人
青の世界を描き続けていた三塚が、ある日突然、バナナの皮を巨大なオブジェとして作り始めた。
その変化は一見突飛に思えるかもしれない。しかし、彼にとっては「疑問」の探求の延長線上にあった。
「見えているバナナの皮を踏む人はいない」
それは三塚が抱いたシンプルな疑問だった。目の前にバナナの皮があれば、誰もがそれを避ける。
しかし、目に見えないもの——社会の仕組みや資本主義のルール、情報の過剰さ——そういったものは、人々を滑らせ転ばせる。
彼の巨大なバナナの皮は、その「滑る現実」を象徴しているのだ。
バナナは単なる果物ではない。
それはグローバル経済と結びつき、世界を動かす巨大なシステムの中にある。
プランテーション産業の発展、労働環境の問題、消費社会の象徴。
三塚のバナナは、そうした現代社会の裏側をユーモラスに、しかし鋭く突きつける。「疑問の疑問」としての作品なのだ。
疑問を踏みしめる
三塚新司の作品は、見る者に「疑問」を投げかける。
バナナの皮を見て笑うか、それとも、その先に潜む意味を考えるか。彼の作品の前に立った瞬間、私たちは問いかけられる。
「あなたは、この世界のルールを本当に理解していますか?」
巨大なバナナの皮は、ある意味で「転ばぬ先の知恵」なのかもしれない。
これを見て笑うことで、私たちは自分たちがどんな仕組みに取り込まれているのかを意識する。そして、その意識こそが、「滑らない」ための第一歩となる。
三塚の作品は、ただ飾るためのものではない。
それは思考を促し、現実を映し出す鏡である。
もしもあなたが、見えているはずのものを見落としていないか、自分に問いかける時間を持ちたいなら、彼の作品はきっと、その答えの手がかりをくれるだろう。
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三塚新司
Shinji Mitsuzuka |
Schedule
Public View
4/19 (sat) 11:00 – 19:00
4/20 (sun) 11:00 – 17:00
2025年3月14日(金) ~ 4月5日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日3月14日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:3月14日(金)18:00-20:00
※3月20日(木)は祝日のため休廊となります。
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F